2016年10月20日

【オンライン法務部メールマガジン】2016年10月号/第50号/[国際契約と仲裁のメリット・コスト]

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2016年10月号 第50号 [国際契約と仲裁のメリット・コスト]

発行 オンライン法務部 http://www.motoffice.jp/olld.index
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[1] ご挨拶
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今年の秋、ゆっくり深まる感じでしょうか・・・。今月号は、石下雅樹弁護士からです。

編集/茂木


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[2] 国際契約と仲裁のメリット・コスト
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(1)国際契約と仲裁合意
 読者の皆さんの中には、海外の会社の製品を輸入したり、海外の技術やサービ
スを使うなどのため、国際取引契約を締結する機会を持つことがあるかもしれま
せん。
 そして、紛争が生じた場合の解決方法として、管轄裁判所を合意するケースの
ほか、「仲裁合意」をしておくケースもよく見られます。
 仲裁合意規定の典型例としては以下のようなものです(日本商事仲裁協会のウ
ェブサイトから引用)。
  All disputes, controversies or differences which may arise between
  the parties hereto, out of or in relation to or in connection
  with this Agreement shall be finally settled by arbitration in (name of
  city), in accordance with the Commercial Arbitration Rules of
  the Japan Commercial Arbitration Association.

 この契約からまたはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるす
べての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商
事仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により最終的に解決されるも
のとする。
 ここで、国際契約で紛争解決条項を選択するのが妥当なのか、またどのように
定めるかを判断するにあたり、「仲裁」の意味を理解しておくことは重要といえ
ます。そこで本稿では、仲裁についてのアウトラインとコストを簡単に解説します。

(2)仲裁とは
 仲裁とは、当事者が、私人である第三者をして争いを判断させ、その判断に服
することを合意し(これを「仲裁合意」といいます。)、その合意に基づき紛争
を解決する制度です。
 しかしこの「仲裁」の制度は単なる私人間の話合いや示談とは大きく異なる特
徴があります。それは、この仲裁人の判断(「仲裁判断」)には、裁判所による
確定判決と同一の効力が認められているからです(仲裁法45条)。従って、仲
裁判断に基づき、裁判所の強制執行手続を取ることができるわけです。
 もっとも、契約書の中で仲裁合意を定める場合、単なる一個人を仲裁人として
契約書に書く例はほとんどありません。むしろ、多くの場合、どの都市を仲裁地
とするかや、仲裁人選任の方法・手順を規定します。後者については、どの仲裁
組織のルールを選択するか、を記載します。例えば日本なら日本商事仲裁協会が
ありますし、ほかに香港国際仲裁センター(Hong Kong International Arbitration
Centre)、シンガポール国際仲裁センター(Singapore International Arbitration
Centre)などは有名な組織です。

(3)国際仲裁の利点〜執行可能性
 また、国際紛争において、ある国の裁判所で出された判決は、当然に外国で執
行(差押)できるわけではありません。それで、外国の会社に対し日本で訴訟を
起こし、日本で勝訴判決を得たものの、その外国会社が日本に執行(差押)でき
る財産を持たず、外国にある財産を差し押えなければ回収できないというような
ケースで、このことは重大な問題となりえます。
 実際、日本の判決については、中国、タイ等では原則として執行ができないと
解されています。
 他方、仲裁については、世界の148の主要国がニューヨーク条約(外国仲裁判
断の承認及び執行に関する条約)に加盟しており、ニューヨーク条約加盟国どう
しは、外国における商事仲裁についての仲裁判断が、他国の裁判所によって承認
され、執行することが可能とされています(ただし実務上は国ごとに別途検討が
必要です)。
 例えばアジア諸国については、韓国、中国、香港、シンガポール、タイ、ベト
ナム、フィリピン、マレーシア、カンボジア、インドネシア、インド、バングラ
デッシュ、等が加盟国です。
 他方、アジアでは、台湾、北朝鮮、モルディブ、パプアニューギニア等は未加
盟です。ただし台湾は国内の仲裁法で外国仲裁判断の承認についての整備がされ
ています。

(4)仲裁のコスト
 また、一般に仲裁制度については、上の利点に加えて、当事者が仲裁人や仲裁
機関を選ぶことができること、迅速性や、非公開であることなどのメリットがあ
るとされており、国際契約において仲裁合意は頻繁に見られます。
 ただし、仲裁制度について考える必要があるのはコストの問題です。
 というのは、仲裁手続に必要な以下a〜cの費用は、すべて当事者が負担する
のが原則だからです。これに比べ、裁判手続では、bについて当事者が負担する
のは当然ですが、aとcについて当事者が負担する部分は通常わずかです。その
ため、仲裁においてはコスト負担が大きくなるわけです。
  a 仲裁廷の費用(仲裁人の報酬・費用、仲裁廷が選任した鑑定人報酬など
    審理に要する費用)
  b 当事者の費用(代理人の報酬、資料収集の費用、私的鑑定費用、仲裁場
    所への交通費や滞在費などを含む仲裁手続を遂行するための費用)
  c 仲裁機関の管理料金、その他仲裁手続のための合理的な費用(会議室、
    通訳、速記者等の費用)

(5)仲裁のコストの具体例
 具体例として、日本商事仲裁協会(JCAA)と国際商業会議所(ICC)に
ついて取り上げてみます。
 日本商事仲裁協会の場合、紛争による請求金額または請求の経済的価値が20
00万円というケースでは、管理料金が54万円、仲裁人報償金は「時間単価/
仲裁人1名×仲裁手続に要した時間」をベースに上限額(2000万円×10.8%=
216万円)の範囲内で決まるとされています。また時間単価は3〜8万円までの
範囲とされています。ただし、上の費用には、代理人弁護士の費用や当事者の費
用は含まれていません。
  参考:https://www.jetro.go.jp/world/qa/04C-070308.html

 他方、国際商業会議所の仲裁費用については、費目は同様ですが、例えば訴額
が20万ドル程度、仲裁人が一人の場合、仲裁人報酬が平均で1万4600ドル
程度(ただし最大で2万3479ドル)、仲裁機関の管理費用が7895ドルと
なっています(以下のサイトで算定)。
  http://www.iccwbo.org/Products-and-Services/Arbitration-and-ADR/
  Arbitration/Cost-and-payment/Cost-calculator/

 それで、係争額が小さい(億未満の単位のもの)ことが想定される契約は、仲
裁には不向きかもしれませんし、係争額が10億円未満であることが想定される
契約は、仲裁人を一人とする仲裁規定を検討することが必要かもしれません。
 仲裁規定の選択や書き方においては、上のように、想定される係争額やコスト
も加味して検討する必要があると思われます。


執筆: 弁護士・弁理士 石下雅樹
     http://www.ishioroshi.com/


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